続きです。後篇になります。
僕の次にお店に入ってきたのは歳下のアメリカ人。端整な顔立ちで女性にもモテそうな外見だった(男性にはどうなんだろうか)。
スタッフを除いて、僕が初めて見たゲイの方、ということになる。
三番目のお客さんは、ダンディなお兄さん。お兄さんといっても、20歳くらい歳上だ。
お店に入ってきた時からスタッフさんと親しげにお話されていたので、常連なのだろう。
その後、同年代の方々、一見すると結婚して幸せな家庭を築いててもおかしくないサラリーマンなど、次々とカウンターが埋まる。
スタッフさんが、僕がゲイバー初体験かつ初めてゲイの方に会うことを紹介してくれたおかげで、皆さんが僕に色々話を振ってくださり優しく接してくださった。
ゲイの方は皆さん優しい。
派手とかではなくそれぞれ個性があって、僕なんかにも気さくに話しかけてくださる。
その中でも、左隣に座っていた、三番目のお客さんであるダンディなお兄さんは、常に話を振ってくれ会話の輪に常に僕を招き入れてくれた。
お兄さんからすると、僕は可愛くて真面目らしい。自分で言うのも恥ずかしいのだが、度々そう言ってくれた。
お店にいる間の僕は、いつも居酒屋で頼むように、一杯目にビールを呑み、二杯目から日本酒を呑み続けた。
余談だが、僕は酔っても全く表情に出ない。呑みの席ではあまり粗相はしないが、記憶が無くなることはこれまで何度も経験している。
ただ、記憶が無くなっても、側から見れば平然としているらしい。誰かに介抱されなくても、翌日の朝にはちゃんと自宅で気がつく。
前夜のことを全く憶えていないこともあれば、写真を切り貼りするように途切れ途切れで記憶が残っていることもある。
今振り返ると、ゲイバーにいる時間でも憶えてない部分がある気がするが、ほとんど記憶しているので上出来だ。まあ、無駄なことを口走ってない自信はあるし(本名とか具体的な仕事とか)。
時計を見ると、終電の時間になっていた。
あっという間だなと感じたが、3時間くらい経っていた。
翌日は仕事なので、お店の方に「また来ます。」と伝え、ドアの外に出た。
初めてがこのお店で良かった。僕は心から楽しいと思える時間を過ごした。
その帰り道、左隣のお兄さんも電車が途中まで一緒だったので、ご一緒させていただいた。
束の間だが、色々お話することができた。金曜の終電とあって結構混んでいたが、横並びで座席に腰掛けひそひそ話をするのも新鮮で楽しかった。
乗り換えの為に僕が先に電車を降りたが、姿が見えなくなるまで電車の中から見送ってくれたお兄さんは優しかった。感謝しかない。
最寄りの駅からの帰宅の道は足取りが軽い。
何だろう、笑顔がこぼれる。
こんなに制限なく、自由に楽しむことができたのはいつぶりだろう…。いや、初めてじゃないかな。
世の中、皆が敵で仲間なんていないと思っていた。
でもあの場所には、細かい違いはあれど、同じ境遇の人が集まる。
今回、少しの勇気で足を踏み入れたことで、ゲイバーという場所の魅力を知ることができた。
気晴らしには良すぎる場所だ。
また近いうちにお邪魔しようかな。
〜終わり〜